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ちょっと変わったCDの社会人キャリア⑥「そして独立へ」篇
北尾昌大
連載6回目のご挨拶
今回も記事を読んでくださり、ありがとうございます。この連載は6回目の今回でいったん最終回になります。ここまで読んでくださった方には感謝します。
そうは言ってもこの連載は、引退後に自分の生涯を振り返っている訳ではなく、まだまだ社会人キャリアの道半ばの、本日までの振り返りです。この後も、物語は続いていきます。
さて、そんな今回の副題は「そして独立へ」篇。これまで綴ってきたようなキャリアを経て、ようやくここで独立にいたります。どういう経緯で独立したのか、独立後はどんな形で仕事をしているのか?を、今回も大学生のYさんとのインタビュー形式のやりとり送ります。
VCを経ての独立
Yさん:
さて、留学をして会社を辞めることを決意。悩んだ末に転職した先はベンチャーキャピタルというお話でしたが、INCUBATE FUNDではどんなことをされたんですか?
北尾:
INCUBATE FUNDには独特のおもしろい制度で、アシスタントを何年かやった後に、支援を受けて自分のファンドを設立させてくれると言うものがありました。なので、ここで数年修行して自分のファンドを持つぞ!と思って入社しました。なので、基本はファンドを持つための修行としてGP(General Partner)に付いてアシスタントとしてベンチャー投資を学ばせてもらいました。ただ、自分の場合は電通でのキャリアもあったことでCGO(Chief Growth Officer)という肩書きもいただいて、ファンドが出資した先のスタートアップ企業を伸ばす任務も同時に行いました。
Yさん:
出資先を伸ばすとは具体的にどういうことをするんですか?
北尾:
一言で言えば、1人電通のような感じだね。電通ではクリエイティブしかやってこなかったけれど、そこで日々、見聞きしていた同僚たちのやっていることを見よう見まねで全部やった感じ。もちろん、かつての同僚たちにアドバイスを求めたりもしながら。クリエイティブっぽいことで言えば、CMやタクシー広告、あとはサービス紹介の説明動画などを作ることもあったし、キャッチコピーや、採用サイトに掲載するコピーなどの言葉周りの整理もした。それ以外にも、ホームページの監修やUI/UXをいっしょになって精査したり、バナーを作ったり、イベントや展示会の手配をしたり、協賛金を募ったり、提携先を探ったり、いろんなことをやったよ。
Yさん:
やったことないこともたくさんやったわけですね。
北尾:
もちろん至らない部分もあったかも知れないけれど、これまでのように自分はクリエイティブの部署だからクリエイティブの部分だけをやりますって訳にもいかないでしょ?出資先を伸ばすために、自分ができることがあればなんでもやるし、自分にできないことであればできる人を探して紹介するということを片っ端からやっていた。
Yさん:
おぉ、いきなりVCの人っぽいですね。モードが切り替わりましたね。
北尾:
基本、スタートアップ企業はどこも人手が足りていないので、専門性のない分野であろうが雑用であろうが手を貸して欲しいわけ。それこそオフィスの引越しの手伝いなんかもやったよ。手触り感があって、楽しかったです。
Yさん:
でも、その後はVCとして自分のファンドを持つ方向を選ばずに、CDとして独立されるわけですよね?
北尾:
結論はその通りだね。今、話したようにたくさんの投資先を泥臭く支援をしていたら、ありがたいことに評判が良かったのよ。当然、VCからの支援サービスだから実費がかかる部分以外は無料と言うのもあって。しばらく続けていたら「うちの支援もしてもらえないか?」「うちのコピーも考えてもらえないか?」と、いろいろなスタートアップから連絡がくるようになっていったの。
Yさん:
どこかから評判を聞きつけてということですか?
北尾:
スタートアップ企業の社長たちは横のつながりが強いから、ある社長さんが「北尾さんに頼んだらよかったよ」って言ってくれたら「じゃ、うちもお願いしてみようかな」となる。ただ、ここで問題なのは、当然だけど自分はVCに所属してその出資先を伸ばすという任務を実行しているわけで、うちの出資先じゃないところを支援するのは業務外になる。でも、出資先以外の会社からも、次々と依頼が来るようになった。
Yさん:
悩ましいですね。
北尾:
うん、そこで悩んだよ。周囲を見渡すと、自分と同じようにアシスタントとして、自分のファンドを持つための修行をしている同僚たちは、みんな自分より10歳以上若くて優秀。その子たちと切磋琢磨しながら投資家1年生として頑張るのが良いのか?それとも、これだけ引き合いがあるのであれば、これまで20年近くやってきたクリエイティブ・ディレクターとしての経験を活かしながらスタートアップ企業の支援をやるのが良いのか?と。
Yさん:
なるほど。でも、その悩みだったら後者を選ぶのも分かりますね。
北尾:
もちろん結論はそっちを選択したけれど、ファンドを持ちたいという夢もあったから、悩んだよ。
Yさん:
ちなみにファンドを持ちたいという夢は今でもあるんですか?
北尾:
ゼロとは言わないけれど、その後もスタートアップの業界の中でいろいろと見てきて、自分よりもVCに向いている人がたくさんいることはよく分かったから、強い想いはなくなったかな。それよりもスタートアップを支援したいという想いの方がぜんぜん強い。
Yさん:
そして、いよいよ独立と。
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