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本を読まない後輩におすすめする僕の広告本ガイド :言葉とコピー編②

上島史朗


「続・コピーライターが参考になる言葉とコピーの本、9冊」

前回、土屋耕一さんの本から、「凡人は、積立貯金で。」という一文を紹介しました。そして、多くの優れた書き手の皆さんが「100案考える」ことを勧めています。

 

「100案」と聞いて、今回も途方に暮れている後輩S。

 

では、具体的にどう100案書けばいいのでしょう。最初にご紹介する本は、そのタイトルがまさしく言い表している『100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』(2021年 マガジンハウス)です。著者の橋口幸生さん(この連載でも「ビジネスパーソンのための映画入門」を連載していますね!)は、本の前半でとても大切なことを指摘しています。それは、「いいアイデアだけがアイデアだと思い込んでいる人が実に多い」(p.26)のだということ。そうなんです、「100案書いて」と言われた時、僕らはつい全部優れた案=アイデアでないとダメなんじゃないか、というプレッシャーを勝手に感じて、その1案目すら出てこなくなって、最終的には「長野に帰れ」と言われてしまうのです(※前回の連載をご参照ください)。

 

クオリティ度外視で、とにかく100案出す。この本には、そのためのインプットとアウトプット、そしてアイデアを選ぶための視点、心構えがとてもわかりやすく書いてあります。面白いのは、「いいアイデアの陰には、大量のダメなアイデアが隠れている」(p.102)ということ。具体例として、スティーブ・ジョブズが「ソニー」好きだったことからiMacの名前を「MacMan(マックマン)」にしようとしていた、というエピソードを紹介しています。このエピソードから思い出したことがあります。つい先日、食べていたヨーグルトの内ぶたに、「ミッキーマウス」の命名にまつわるトリビアが書いてありました。ウォルト・ディズニーは当初、ミッキーに“モーティマー・マウス”という名前をつけるつもりだったそうです。その名前に難色を示した妻のリリアンが、かわりに“ミッキーマウス”を提案した、といった内容でした。スティーブ・ジョブズやウォルト・ディズニーですら、時にダメなアイデアを出す。僕はなんだかとっても励まされました。

橋口さんは他にも、『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』(2020年 宣伝会議)や、『100万回シェアされるコピー』(2017年 誠文堂新光社)など、言葉や企画に困った時の頼れる、僕にとってのメンター本を出しています。タイトルだけ見ると、たとえば『言葉ダイエット』は「最強の文章術」とあるように、ハウツー本のような印象を持つかもしれません。(もちろんそうした機能も担保しています)。その一方で、本の後半に紹介されている岐阜新聞の飛騨市長のコラムへの優れた分析など、読んでいて泣きそうになるような優れた考察があって、読み応えのある本です。

 

 

広告コピーについてどう書くか?谷山雅計さんの『広告コピーってこう書くんだ!読本』(2007年 宣伝会議)ほど、多くのコピーライターにとっての共通メンター本の役目を果たした本はないかもしれません。この本の冒頭でも「ひらめきや直感、感性あるいは才能」といったものに頼るのではなく、“発想体質”になることの大切さが紹介されています。最も基本的な態度として、「なんかいいよね禁止」を守って「なぜ」を考える(p.20)ことの大切さが書かれています。その上で、ここでもやはり「一晩で100本コピーを書く方法。」(p.30)が紹介されているのです。(もはや、コピーを書く人が全員口裏を合わせるかのように、100本書きなさいと語りかけてきます)。そのためには、商品との関係を、「自分」だけにせず、知り合い100人を思い浮かべてみるなど、この本にはたくさんの方法が、そして広告コピーを書く上での心構えが、ギッシリと詰まっています。

 

谷山さんは、かつてマドラ出版が運営していた「広告学校」の先生をされていました。当時、まだ何者でもなかった僕は、藁をもすがる思いで、この学校へ。谷山さんは、僕が通ったCMプランナークラス「星組」の講師でした。その時出された課題は、この本の中でも紹介されている、「若者が、古本屋をもっと利用するようになるコピーを考えてください」(P.54)というもの。それを20本書いて提出する課題でした。「CMを学びたいのに、なんでコピーの課題なんだろう」という、今から考えたらグランド10周させたくなるような甘い考えだった当時の僕は、書いたことのないコピーを必死に考えて提出しました。しかし、結果はボロボロ。書いたもので唯一、マルがつけられていたのは「探していなかった本が見つかった。」というもの。そこには谷山さんのこんなメモがありました。「気づけているけど、古本屋に連れて行こう!としていない」。ううう、ごもっとも・・。この本の中でも谷山さんは「描写ではなく解決」が大切であることを書いています。僕が書いた、コピーなのかどうかさえ怪しいこの一文は「自分」だけの視点で書かれた描写でした…。「みなさん、もっと頭良くなってください。」と開口一番に谷山さんが話したことを、しみじみと思い出します。(この本がまだ出版されていない、僕にとってのメンター本不在時代の思い出です。)

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