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本を読まない後輩におすすめする僕の広告本ガイド :アイデア奮闘編

上島史朗

「それでもアイデアに悩んだ時に読む、広告メンター本6冊」

 

 

「たとえば旅行に出かける時にさ、旅先で本が読みたくなるかもと思って、本を2、3冊リュックに入れて、でも旅先では何かと忙しかったりして読めず、結局、重たい本3冊をA地点(自宅)からB地点(旅先)まで往復移動させただけ、っていう経験、ない?」

 

「ないです。」

 

という後輩Sとの断絶トークから始めましたこの連載も、いよいよ最終回となりました。アイデアの旅先で迷子にならぬよう、今回も広告メンター本をご紹介します。

コピーライター、アートディレクター、CMプランナー、クリエイティブディレクター、といった(ひょっとしたら今やトラディショナルな…)切り口で本を紹介しましたが、最終回ではジャンルレスにご紹介します。この中の一冊でも参考にしてみようかなと思った時が、メンター本との師弟関係の始まりです。

 

突然ですが、僕の手元の手帳にはこんなメモが書いてあります。

 

・“Typewriter”(タイプライター)は、キーボードの一列のキーだけで打てるいちばん長い言葉。

 

・一枚の紙を四十二回折ると月に達する。

 

・ジャングルに生息する動物の七十パーセントは、生きていくためにイチジクを食べている。

 

これはどれも、別々の海外ミステリ本の中で登場人物が披露したもの。物語の核心とは全然関係がないのですが、こういう話が出てくると僕は無性にメモしたくなります。いますぐ役に立つ訳じゃないけれど、気になったことを手帳にメモしておく。ときどき見返してみる。そんな習慣ができたメンター本が、嶋浩一郎さんが2007年に出した『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(2007年 ディスカヴァー携書)でした。

 

 

この本では、日々のメモからアイデアを導く方法が紹介されています。ユニークなのは、メモをする際に情報を整理してはいけない、と話されていること。情報を分類してファイリングしてしまうと、もう一度その情報を見返すことがなくなってしまうから。分類するのではなく、情報を見聞きした順番にただひたすらメモして、羅列しておくこと。その状態を嶋さんは「情報を放牧する」と表現されています。

 

具体的には、

・付箋を貼ったり、二軍ノートに書いたりして情報を収集する

・情報を一ヶ月寝かせてからもう一度見返して気になったものを一軍ノートに書く

・書いたものを見返すことで情報と情報が結びついてアイデアに変わる

という3つのプロセスが紹介されています。<情報の放牧>は、2つ目のプロセスに該当します。

 

“面白いと思った情報をすぐに放牧しちゃったらもったいないんです。しばらく熟成させて記憶のシナプスを強化させましょう。”(p.85)

 

僕は、この本を読んだ2007年からこの方法を意識してメモを残すようにしてきました。モレスキンの手帳を好んで使うようになったのもこの本がきっかけです。その後、EvernoteやGoogle Keepが出てきたり、最近のiPhoneには「ジャーナル」という日記アプリが入ったりしましたが、情報の一覧性においては真っ白なモレスキンの手帳に軍配が上がり続けています。

 

嶋さんのこの本のタイトルになっている「アイデアのつくり方」という言葉は、世界初の広告会社J・ウォルター・トンプソンの常任最高顧問だったジェームス・W・ヤングが書いた名著へのオマージュとなっています。それが、『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング 著/今井茂雄 訳/竹内均 解説 1988年 TBSブリタニカ)です。そして、この本の中で紹介されている“アイデア”というものの本質をたった1行で言い表している有名な言葉が、

 

“アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない”(p.28)

 

です。

 

 

ヤングはまず資料を集めること(第一段階)、資料を咀嚼すること(第二段階)、問題を完全に放棄すること(第三段階)、アイデアが訪れてくる(第四段階)、アイデアを具体化し展開させる(第五段階)といったプロセスについて語っています。そう、嶋さんの本はまさにこのヤングの残したアイデアのつくり方の、より具体的な実践編とも言えるのです。ヤングのこの本は、冒頭で本人が「この小論は」と語り始めているように、わずか51ページしかありません。しかし、その中に書いてあることの、現代に通づるエッセンスの濃さよ…。久しぶりに読み直してみて、今更ながらスゴい本だと思います。アイデアを出すことに躍起になって読むと、ついつい第四段階の「アイデアが訪れてくる」ところに期待ばかりしてしまうのですが、本当に大事なのは第一、第二、第三段階。嶋さんの本で言うなら、情報を収集して、寝かせてから書いて放牧することにあるんじゃないかと思います。どちらも非常にスリムな本ですが、アイデアを考える基本スタンスを身につけるのに効果的な、優れたメンター本です。

 

 

「はい、質問です。そうやって、いつも広告の本ばかり読んでいるんですか?」

 

「“そうやって”の一言がズシンとくるけど、そんなことはないよ。仕事のこと全部忘れていいなら、さっき紹介した海外ミステリとかを寝っ転がりながらずーっと読んでたいもの。」

 

「やっぱり何か読んでいるんですね。広告本以外で、メンター本ってあるんですか?」

 

 

“メンター本”という単語が後輩Sに刷り込まれつつあることにいまちょっと泣きそうになりましたが、そんなことで感動している暇はないので、広告本以外のメンター本を紹介してゆきます。

 

ゲームクリエイターが書いた本を二冊。ひとつは、1999年に大ヒットしたゲーム『シーマン〜禁断のペット〜』の生みの親、斎藤由多加さんの『ハンバーガーを待つ3分間の値段』(2006年 幻冬社)。もう一冊は、花札やトランプをつくる京都の会社を世界の任天堂にした立役者、横井軍平さんへのロングインタビューをまとめた一冊『横井軍平ゲーム館 RETURNS』(2010年 フィルムアート社)です。

 

 

斎藤由多加さんの本は、糸井重里さんが主宰する『ほぼ日刊イトイ新聞』で連載された「もってけドロボー!〜斉藤由多加の『頭のなか』。〜」と、『DIME』で連載された「おとなの虫眼鏡」を大幅に加筆修正してまとめたもの(本文ママ)です。この本の冒頭にはいきなり、非常に気になる問いが書いてあります。それは、「『現象』の反対語を答えなさい」というもの。四谷大塚の小学生向け問題集からの出題として紹介されています。わかりますか?

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