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言語化を言語化してみる ⑤「使われ方」

小川祐人

寺山修司は、かつてこんなことを言いました。

 

詩人にとって、言葉は凶器になることも出来る。私は言葉をジャックナイフのようにひらめかせて、人の胸の中をぐさりと一突きするくらいは朝めし前でなければならないな、と思った。
だが、同時に言葉は薬でなければならない。さまざまな心の傷手を癒すための薬に。

(寺山修司『青春の名言』より)

 

言葉はジャックナイフであり、同時に薬である、と。大学時代に寺山修司には初めて触れて以来、こういうアフォリズムは憧れ続けています。が、なかなかうまく扱えないものです。(それこそナイフで自分の手をぐさりと切ります……)

 

ジャックナイフや薬、のようなかっこいい例えはできないのですが。それでも自分は、言葉はひとつの「道具」だと思って仕事をしています。少なくともコミュニケーションの仕事においては、ほぼすべての言葉には目的があると信じてみる。

 

自分自身は、企業ブランディングの仕事が多いので、その場合にどうすればその言葉が機能するか(いい道具になるか)を考えています。近頃思うのは、言葉に「運動エネルギーのようなもの」を込められないかということです。

 

……といっても、スピリチュアルな話をするわけではなく。その言葉があることで、企業にとっての求心力や、何かをつくったり売ったりする原動力が生まれないか、という意味です。

 

広告表現として世の中に出したら終わり、ではなく。その先の「使われ方」をイメージしてみる。言葉を単なるお守りのような飾り物ではなく、もっと動的なものとして機能させてみる。

 

ブランディングの仕事において、具体的には次のふたつのプロセスで言葉を考えることが多いです。

 

①その会社は何の仕事なのかを再定義する

その会社に求心力が生まれないのは、そもそも自分たちの仕事にどういう意味があるのかが共有されていないからであることが多いです。だからまずは、根っこの部分を再定義してみる。これは「ビールを売っているからビールの仕事」「化粧品を売っているから化粧品の仕事」ということではなく。なるべく新しく見えるように「仮説」を入れてみる。第二回で取り上げた話に即して言えば、「◯◯業→◯◯業」と矢印の中で規定しています。

 

世の中の事例として有名なものは、クルマの会社から「モビリティカンパニー」と宣言したTOYOTAや、洋服の会社から「情報製造小売業」と掲げたUNIQLOなどがあります。

 

 

②その定義をもとに使いやすい言葉をつくる

①のままではまだ使いづらいので、それが使いやすく世の中の人も共感しうるコピーにしていきます。要は、いわゆるコピー開発作業です。

 

なぜわざわざ①のプロセスを踏んでいるかと言うと、そこから考えないとだいたい「どっかで見たことがあるもの」になるからです。ただ言っているだけ、になる。結果として使いづらいものになる。表現そのものが同質化しないように、根っこの部分に新しさを組み込んでおく。やはりそれが、冒頭で「運動エネルギーのような」と呼んだものの元になると思うのです。

 

 

このやり方に気づいたのは今から10年ほど前。ベネッセホールディングスのブランディングに携わらせていただいたときのことです。

 

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