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ちょっと変わったCDの社会人キャリア⑤「ミッション完成」篇
北尾昌大
連載5回目のご挨拶
今回も記事を読んでくださり、ありがとうございます。もう5回目、ストーリー的には終盤です。はじめましての方は時系列の話ですので、1回目から順番に読んでいただけたらうれしいです。
今回も大学生のYさんとのインタビュー形式のやりとりで、自分のキャリアを振り返っていきますが、今回の副題は「ミッション完成」篇。行き当たりばったりでやってきた仕事人生、そこにはじめて「軸」ができた。自分の仕事における「ミッション」を規定できた話です。今も、そのミッションの下で仕事における日々の意思決定を行っています。
MBA留学直前での意識の変化
Yさん:
さて、社長と仕事をするCDとして電通に戻られたものの、クリエイティブの前段階の事業の話の部分には参加ができなかった。その解決策としてのMBA留学を決意というところまでが前回でした。
北尾:
実際には会社に入ってから仕事で英語を使う機会はほとんどなかったので英語の勉強は想像以上に大変だったよ。イギリス留学にはIELTSという、TOEICやTOFELのような英語の試験で指定のスコアを獲得する必要があるんだけど、簡単ではなかった。でも、振り返ると、あの試験勉強をしていた期間は高校受験以来の久々の経験で、社会人としての日常とは違う時間を過ごせたので、スコアが上がらず苦しかったけれど、それなりに楽しい時間でもあったなぁ。
Yさん:
出ました、前向き!
北尾:
軽く自慢させてもらうと、無事に受験した大学院は3校全部受かりました!それで、リーズ(Leeds)というイギリス第3の都市にあるリーズ大学の経営大学院に進学することを決め、会社は1年間休職して家族を連れて渡英するんだけど、まず結論から言うとこの1年は、社会人キャリアにとってものすごく重要な1年になりました。
Yさん:
家族も連れて行ったんですね!?お子さんもいっしょですよね?
北尾:
やっぱりそこが驚くよね。よく奥さんがOKして来てくれましたね?って言われるんだけど、そこはすんなり。いっしょに来てくれた家族には感謝しています。家族で言えば、特に上の子は、小学校の準備コースがあって現地校に1年通ったのは彼女の人生にも大きな影響を与えたと思う。
自分に関しては、すごく大きかったのが「自分」と向き合えたんだよね。休職してしばらくは当然だけど「広告」や「クリエイティブ」のことが気になるわけ。街中のビジョンを広告クリエイターとして見ている。癖というか職業病というか。でも、自分でも驚いたんだけど3ヶ月も経つ頃には、経営大学院の学生になっているんだよね。広告クリエイターとしての視点や思考がすぅっとなくなっていった。電通という会社に所属していることや、クリエイティブ・ディレクターという肩書きで働いていることは、自分の一部でもあるけれど、それがイコール自分自身ではないんだって言う、当たり前だけど忙しく働いている毎日では実感できないことに気がつけたし、素の自分ってこういう人間だったんだ!?って妙に感動した。
Yさん:
分かるような分からないような。
北尾:
そうだよね、まだYさんは大学生だし、あの状態にならないとこの感覚は分からないかも知れない。殻が外れると言うのか、服を脱ぎ捨てると言うのか。そういう意味で、自分は働いて18年目の40歳の時に留学したんだけど、だいたい20年くらい働いたタイミングで、いったん仕事の自分から解放される時間を作ることは、人生の折り返し地点として大事だと思うな。みんなに推奨したい。例えば、会社には勤続何年の休暇などもあるとは思うんだけど、これが難しいのが1週間や1ヶ月では抜けなくて、3ヶ月目くらいにようやく素の自分と向き合えるんだよね。
Yさん:
まだまだだいぶ先の話だけど、頭の片隅に置いておいて自分も実践させていただきます。
北尾:
それから、キャリアの話では、留学に向けて勉強している1年の間に大きな変化がありました。MBAのことを調べたり、あとは留学専用の塾に通ってイギリスでの授業の受け方とか論文の書き方などを勉強する中で、たくさんの学術論文を読んだり、MBA留学生の方のブログを読んだりしして、経営+アカデミックな要素が日常に浸食してきた結果、なんだかそっちが面白そうに思えてきたんだよね。
Yさん:
なるほど。あたらしい刺激だからっていうのもありますよね。
北尾:
それは多いにあると思う。なので、合格して実際に留学する頃には、自分はもうクリエイティブは引退しよう、せっかくMBAに通うのだからネクストキャリアはビジネスの方に舵をきろうという頭になっていた。そうなってくると、今度はビジネスと言うあたらしい道に対してクリエイティブのキャリアは邪魔になるのではないか?と思い始めたんだよね。
Yさん:
どういうことでしょうか?過去のキャリアが不要ということですか?
北尾:
不要って言うと言い過ぎかも知れないけれど、例えばMBAで自己紹介する時に、過去にCMを作っていたとかキャッチコピーを書いていましたって話をしても、その実績には関心はないだろうし、それよりも、それがどうしてビジネス界に進もうと思ったのか?と言う部分に理屈をつけて毎度説明する必要が出てくるなと。しかも、英語で。
それはちょっとめんどくさいぞと思ったの。海外の広告のメガ・エージェンシーは、メディア、いわゆる媒体の取り扱いが花形の仕事でもあるから、嘘こそはつかないけれど、さも広告代理店でメディアを取り扱っていましたと言うスタンスでMBAに挑むのが良いのではないかと決めたの。アドマンって感じに。なので、MBA初日は髪は黒に戻してジャケットを着て登校した。
Yさん:
おもしろいですね。格好から入るのも大事ですもんね。でも、結論としてはその道には行かなかった訳ですよね?
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