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ビジネスパーソンのための映画入門Vol.2「シャザム!」
橋口幸生
「教養としてのホニャララ」のようなタイトルのビジネス本が、書店のベストセラー欄を埋め尽くしています。これは、テクノロジーが異常な速さで進歩する現代において、一時のトレンドに流されない普遍的な知識が求められていることの現れだと僕は思っています。一方、「タイパ」なんていう言葉が流行るほど、忙しいのが現代社会。あれもこれもこなしながら、手っ取り早く「本質」や「気づき」を身につけたい!…という声に応えるために、「教養としてのホニャララ」が量産されているのでしょう。
もし、あなたも教養ニーズを持っているのであれば…ビジネス本を買うより優れた方法があります。それが「映画を観ること」です。様々な「教養」の中から、「今、ビジネスパーソンが知っておかないとマズいもの」がセレクトされ、映像芸術としてまとめられているのが「映画」だからです。
たとえば、3月に発表されたアカデミー賞の受賞作品の顔ぶれを見てみましょう。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は、作品賞、監督賞、主演女優賞など主要7部門を受賞。アジア系移民の物語であり、人種問題、「ケアする男らしさ」、エイジズム、性的マイノリティなど、現在注目されている社会的イシューが山盛りに詰め込まれていた作品でした。しかも、社会的イシューを扱うこと自体が目的化しているのではなく、社会的イシューこそが作品のおもしろさの源泉となっています。同性愛者の苦悩を扱った「ザ・ホエール」、マイノリティをあるがままに受け入れることを描いた「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」、イギリスの植民地支配に反旗を翻すインド人革命家を描いた「RRR」など、他の受賞作も、必ず作品のテーマ性に社会的イシューが組み込まれています。
つまり、最高峰のクリエイター達が世界をどう見ているのかを手っ取り早く学べるのが、「映画」なのです。しかも、必死にやるお勉強ではなく、大人の趣味、エンターテイメントとして、です。
広告の世界でも、賞レースで注目されるようなトップレベルの作品には、社会性が求められるようになりました。世界トップレベルの映画やドラマを見ることは、広告クリエイターにとっても学びが大きいはずです。
そこでこの連載では、ADBOX会員の皆さんに、「ビジネスパーソンや広告クリエイターにオススメしたい」という観点から、世界の映画やドラマを紹介しています。今回は「シャザム!」(2019)と、今年2023年に公開された続編「シャザム!〜神々の怒り〜」です。ここまで散々、アカデミー賞に触れておきながら、賞レースとは一切無縁。ポップコーン片手に楽しめるヒーロー映画です。しかし、「子ども達の生きづらさ」という、極めてヘビーな問題を扱った映画でもあります。子ども達が大好きなヒーロー映画で、なぜそんな問題を扱っているのか?以下、解説していきます。
マンガでリアルに描かれる、子ども達の生きづらさ
治安がよく豊かな日本は、子ども達にとって良い国なように思えます。しかし、残念ながらデータが示しているのは、別の現実です。
ユニセフが2020年にまとめた報告によると、日本の子どもの「精神的幸福度」は38カ国中37位。2021年の児童虐待の件数は19.7万人、2022年の小中高生の自殺者数は514人で、ともに過去最多。2018年の子どもの貧困率は14%で、OECD諸国の中でも高い水準にあります。現代に日本は、子どもにとって過酷な国なのです。
日本を代表するエンターテイメントである「マンガ」では、このような社会状況を反映した作品が登場しています。代表的なものとして、2021年から2022年にかけて『少年ジャンプ+』で連載された『タコピーの原罪』が挙げられます。
『タコピーの原罪』の主人公は小学4年生の久世しずか。父親は家を出て、残った母親は水商売をしているという、過酷な家庭環境で暮らしています。しずかの同級生・雲母坂まりなは、父親がしずかの母親と不倫関係にあることで夫婦関係が崩壊。まりなは報復として、しずかに壮絶ないじめをしています。とても少年マンガとは思えない、ほとんどレディスコミックのような設定です「マンガ大賞2023」や、「第27回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞最終候補にノミネートされるなど、高い評価を得ています。
僕自身も、『タコピーの原罪』は、マンガとしては極めて完成度が高いと思っています。タイムループ設定を活かしたどんでん返しが相次ぐ展開から、まさにソーシャルメディア時代の作品です。ファンによる考察が盛り上がり、最終話公開日のツイート数は約1万4000件を記録しています。
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