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本を読まない後輩におすすめする僕の広告本ガイド :アートディレクター編

上島史朗

 

「アートディレクションの視点から気づきをくれるメンター本、5冊(というか二人)」

 

 

「上島さん、わたし、本読みました。」

 

 

「え・・・!(ついに)読んだのー!?」

 

 

クララが立った!的な感動と共に、「本を読まない後輩におすすめする」というこの連載のアイデンティティが喪失しましたが、とにかく嬉しい。調査によると「部下にもっと本を読んで欲しいと思う管理職は6割*」なんだそうです。僕もその一人なのか…。な、なんか無理やり読ませているようで恐縮しますが、彼女が本を読んでみてどうだったのか気になります。*2019年 楽天ブックスが実施した「上司と部下の読書事情に関する調査」より

 

 

「コピーライターの方の本を二冊、近所の図書館で借りてきて読みました。」

 

 

「ふむふむ。そうだよね、あんまりモノを増やさないほうだって言っていたもんね。」

 

 

「で、読んでいてすごく感化されて、よし書いてみようと思って、途中までは書けたんですよね。でも、…やっぱり最後の最後、コピーにならないんです…。」

 

 

なるほど、すごく良くわかります。僕も、コピーが書けない時、すがるようにしてコピーライターの皆さんが書いた本を読み漁りました。で、読めども読めども、本に書いてあるほどスムーズにコピーが書けずに絶望したことが何度もあります。でも、ほとんどすべてのコピー本が、「今日からキミも書ける!」を約束している訳ではなく、書くことに向き合う時のメンタリティであったり、書く前の発見や視点の整理について書かれています。How to本のような期待は、意外としないほうがいい。そして、そのことに早めに実践で気づき、そこから自分なりの取り組み方を見つけるようと行動することこそが、広告メンター本の役目なのだと多います。

 

「読む」→「試す」→「絶望する」→「もっと試す」→「もっと絶望する」→「一度忘れる」→「自分で見つける」→「すこしだけうまくいく(かも)」といったフローでしょうか。振り返ってみると、最初の頃の「読む」と「試す」がじわじわ活きていることに、後になってから気づく、というパターンが僕の場合は多いです。打合せに向けて焦って読んで、即効性を期待して試して、試し方そのものが自分のものになってないから、アウトプットもあやふやになる。後輩Sがハマったそのパターンであっても、繰り返してゆくことで、だんだん自分のものになっていくのだと思います。広告メンター本と向き合うコツは、一度、著者の弟子になったように素直に吸収すること。もちろん、自分に合う・合わないはあるでしょう。そこはメンター本の良いところで、リアル上司じゃないから、フィットしなければ人事に相談せずともスイッチできるのです。

 

読めども書けない、思いつかない、そんな悩める後輩Sにお薦めする今回の本は、コピーライターでもCMプランナーでもなく、アートディレクターの皆さんが書いた本です。アートディレクターの視点で書かれた本の数々は、アイデアとエグゼキューションがつながった力強い視点を、迷える僕らに提供してくれます。

 

最初に紹介するのは、大貫卓也さんの二冊。『大貫卓也全仕事』(1992年 マドラ出版)と、『Advertising is TAKUYA ONUKI Advertising Works(1980-2020)』(2022年 CCCメディアハウス)。ゲームだったらファーストステージでいきなりラスボス登場のようなセレクトですが、やっぱりアートディレクターの本、とイメージするとき、大貫さんの本を外すことは不可能です。

 

 

『大貫卓也全仕事』は、前回ご紹介した『佐藤雅彦全仕事』とおなじシリーズで、マドラ出版から出ていた本です。この一冊に影響を受けて広告の仕事を始めた人、多いんじゃないかなあと想像します(僕もその一人かもしれません)。西武線沿線で育ったので、子供の頃からとしまえんの広告は身近にありましたが、あの広告がどれも大貫さんの手によるものなのかと驚き、アートディレクターという職業が世の中にあるということを知ったのもこの本です。92年の本ですから、ラフォーレ原宿の仕事よりも、としまえんの仕事のほうが多く掲載されています。 ペプシマンはまだ生まれていません。

 

この本、広告をつくることの面白さ、楽しさ、明快さに溢れていて、とにかく全ページ素晴らしいのですが、メンター本的に僕が注目したいのは、「大貫式広告の作り方」というページ。大貫さんが広告を作るうえで守っている五つのポイントが紹介されています。一、目立つこと。二、ほかと違うこと。三、わかること。四、企画や商品のシズルがあること。五、商品が実際に動くこと。この、有名な五つのポイント、その後もいろいろな人によって語り継がれていると思います。すごいのは、五の「商品が実際に動くこと。」を「広告のスタートであってゴール、目的であって、すべてである。でも、そのわりには、広告作りばっかり考えていて、この点がおろそかになる人って、けっこう多いんだよね。」(p.304)と指摘されていること。大貫さんの当時の上司、宮崎晋さんが早い時期から大貫さんに仕事を任せていた理由も「広告をよく知っていたから。」。「広告がものを売るためのビジネスであるということを理解してたんです。」(p.256)と語られています。

そして、最後のページには、こんなことが書かれています。

 

“「大貫卓也全仕事2」発刊予定?”

 

その意図するところはこうです。「全仕事」なんてまとめかたをすると、死んだ人みたい、もしくは、完全に現役をしりぞいてしまったようで、縁起がよくないから、とのこと。いつか「大貫卓也全仕事2」を出すことを目標にまた一からはじめる意欲を、あとがき的な1ページにまとめられています。この本が出版された時、大貫さんは34歳…!タイムマシン的に令和の今からこの本を見たとしても、「たしかに!その後も大貫さんは凄まじい仕事を世の中に残し続けます!」と言いたくなります。

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