記事詳細
ビジネスパーソンのための映画入門Vol.3「ジョン・ウィック:コンセクエンス」
橋口幸生
「ポリコレでハリウッド映画はダメになった」「世界はポリコレ疲れ」ソーシャルメディアには、こんな意見が飛び交っています。
“かつてのハリウッド映画は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(なぜかポリコレ批判派の人たちは、やたらとこの映画の名前を出したがる)のように、純粋なエンターテインメントだった。それが今や、ポリコレ批判を恐れて、表現が抑制されるようになった。さらに女性やマイノリティがゴリ押しで主役にキャスティングされるようになった。もうダメだ“…といった感じです。
しかし、これは事実レベルで間違っています。例として、ある映画を紹介しましょう。女性やアジア人、黒人が大活躍し、白人は嫌味な悪役という、「ポリコレ」批判派が発狂しそうなキャスティングの作品です。
映画の名前は、「ジョン・ウィック:コンセクエンス」。ファンや批評から絶賛され、シリーズ4作目にして世界興収4億ドルという最高の数字を記録しています。
最近のハリウッド大作では、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の時代のように、白人男性だけがメインの役どころを占めることはほぼありません。また、男性主人公に花を持たせるだけの女性キャラクターも消滅し、男性と同じような活躍の場が用意されるようになりました。
こうした変化は、倫理的な理由でもたらされた側面もありますが、それだけではありません。ハリウッド映画に限らず、世界市場をターゲットにしたエンターテインメント作品で多様性が重視され理由は、シンプルです。その方が作品として面白くなり、ビジネスとしても成功するからです。「ジョン・ウィック:コンセクエンス」は、このことが分かりやすく出ている作品なので、順に解説してゆきましょう。
レジェンドにして革命児、ドニー・イェン
個性豊かな「ジョン・ウィック:コンセクエンス」のキャラクターの中でも最大のインパクトを残すのが、本作のラスボスである盲目の殺し屋、ケインです。香港映画界を代表するアクションスター、ドニー・イェンが演じます。
すでにアクション俳優として長いキャリアを誇るドニー・イェンですが、近年は「SPL/狼よ静かに死ね」(2005年)や「導火線 FLASH POINT」(2007)で、カンフーに総合格闘技を取り入れるというイノベーションを起こしたことが高く評価されました。この2作でドニーは主演のみならずアクション監督としても手腕を発揮しています。
「導火線 FLASH POINT」は動画配信サイトで視聴できるので、ぜひ観賞をおすすめします。超高速カンフーに三角絞め、腕ひしぎ十字固めといった総合格闘技の技が流れるように取り入れられたアクションは、バイオレントであると同時に芸術的。舞踏のような美しさに見とれてしまうこと間違いなしです。
またキアヌ・リーブスは、2012年に香港のチャリティーイベントでドニー・イェンと登壇した際、『導火線 FLASH POINT』をお気に入りの映画として挙げています。また、「ジョン・ウィック」シリーズのアクションを手掛ける「87Eleven Action Design」は、2013年3月に「導火線 FLASH POINT」のラストバトルを完全コピーした練習動画をYouTubeに公開しています。これ2014年に「ジョン・ウィック」第一作が撮影開始される7カ月ほど前のことです。
総合格闘技でも多用される柔術で敵を制圧した後、銃でトドメを指す「ガン・フー」は、「ジョン・ウィック」シリーズのアクション最大の特徴です。そして、そこにはドニー・イェンからの大きな影響があったのです。シリーズ4作目にドニーが出演するのは、必然だったと言えるでしょう。
そんなドニー・イェンですが、盲目の殺し屋ケインとしての役作りは、一筋縄では行かなかったようです。インタビューでは、こんな舞台裏のエピソードを語っています。
この記事は
ADBOXプラン会員限定コンテンツです。
残り4,348文字