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ビジネスプロデューサーブティックという挑戦

田中陽樹

お久しぶりです。

以前「ビジネスプロデューサー鬼十則」というコラムを執筆していた以来、この度ADBOXで久しぶりに掲載の機会を頂いております。と言いますのも、実は「ビジネスプロデューサー鬼十則」の最終回でこんな匂わせをしておりました。

 

そして2026年1月、新しく「BUILD」という会社を立ち上げました。

【BUILD】Webサイト

自分たちから言うのもおこがましいのですが、あえて「ビジネスプロデューサーブティックのBUILD」と胸を張って名乗ります。

クリエイティブブティックがトップクリエイターの集まりであるのと同じく、その名のとおり「トップビジネスプロデューサーの集合体」です。

 

「あれ?田中陽樹ってテレビCMバイイングの会社やってなかった?」

そうです。僕は、2023年に「CMインハウス」というダッシュボードを開発し、株式会社CMIの代表取締役として今年で3期目に入りました。2025年、CMIはTVCM取り扱い額で30億円を超えることができ、多くのクライアントからご支持を頂くことができました。急成長した1年でした。

 

この成長の要因はプロデュース業務にありました。

CMIはテレビCMバイイングの効率化を求める企業からお問い合わせをいただくところから商談が始まります。クライアントが抱えている課題をヒアリングし、メディアバイイングの改善策を提案しディスカッションを重ねていきます。このディスカッションを重ねて、信頼関係が生まれていくと、次第に相談される課題が深くなっていきます。

「1円でも効率的にCM枠を買いたい」という相談が、「離反顧客を取り戻したい」とか「5年後に10倍の売上を達成したい」といった、より深い相談に変わっていきます。すると、提案すべきことがCM枠の話だけではなくなり、より大きなマーケティング戦略とクリエイティブの提案になります。

docomoのブランドコミュニケーションや、ファミリーマートのPBリニューアル、KOSEのクリエイティブなど、プロジェクト全体を担当した経験は僕の得意領域です。結果的に2025年は枠のバイイングだけでなく、CMクリエイティブからブランドサイト制作・デジタル広告・OOH・PR・店頭販促物など、統合的なコミュニケーションを設計していく仕事を多く担当しました。

北川景子さんを起用したKINUJO初のブランド広告、藤田ニコルさんの吉野家年間コミュニケーションは、その象徴的な仕事でした。

他にもCMIでクリエイティブを担当させて頂いた仕事がいくつもあるのですが、すべてに共通していたことがあります。

 

その共通点とは、独立組クリエイターとチームを組んだことです。

たとえば、KINUJOは電通出身の田辺俊彦さん(つづく)、吉野家は博報堂出身の小杉幸一さん(onehappy)でした。

ほかにも電通出身の岡部将彦さん(Que)、小山佳奈さん(上田家)、渡邊千佳さん(Pot)、八木彩さん(ARENCE)。博報堂出身では渡辺潤平さん(渡辺潤平社)、こやま淳子さん(こやま淳子事務所)など。ほかにも、書ききれないほど多くの独立組のクリエイターの方がCMIと仕事をご一緒して下さいました。

クライアントから依頼を受けてクリエイティブ体制をご提案した仕事だけでなく、クリエイターの方から指名を頂きビジネスプロデューサー(BP)としてチームに参画した仕事もありました。クリエイターがクライアントから直指名されているけれど、細かな調整を引き受けプロジェクトマネジメントするBPが不在の案件で声を掛けていただいたのです。これは意外なニーズの発見でした。

僕のBPの経験や、すでに大手を辞めて僕自身も独立して自由に動ける立場は、独立組のクリエイターの方々の力になれるのではないか。これからの広告業界に必要な存在なのではないか、そう考えるようになりビジネスプロデューサーブティックを立ち上げる構想をはじめました。

 

まずは下調べから。

CMバイイング事業を始めた時と同様、僕は思い浮かんだビジネスにニーズがあるのか下調べをします。電博からすでに独立した先輩クリエイターの方々にお時間をいただき、BPブティック構想を話しに行きました。

計画は間違っていなくて、皆さん非常に良い反応を示してくださいました。

そして、独立組クリエイターのリアルを聞くこともできました。皆さん大手代理店のプロジェクトにアサインされている仕事では大きな不満は概ね無さそうでした。

「やっぱり、大手の営業って優秀な人多いよね」と皆さん口を揃えて言います。

一方で、独立したことでクライアントから連絡をもらって指名を受けている直案件だったり、規模が大きくないがゆえの直案件(でも内容は魅力的なので受けた案件)では、苦労をされていました。

プロジェクトを牽引するBPが不在なので、スケジュール・予算の調整や、説明のための資料作成や、関係各所への連絡に時間が取られてしまい、もっとも注力すべき根幹のクリエイティブに集中できる時間を確保できなくなっているケースがありました。結果的に、納品することに精一杯になり、クリエイティブメッセージを世の中に拡げていく戦略が不十分に終わってしまったというケースも聞きました。

活躍の場を広げようと大手から独立したクリエイターが、クリエイティブなことに集中できない状況が起きていました。クリエイターがクリエイティブに集中する力にBPブティックはなれると確信しました。絶対にBPブティックを立ち上げようと決意は固まりました。

 

BUILDの社名に込めた想い

「やることよりも、やらないことを決めるのが事業戦略を作る上で大事」と良く言いますが、BUILDは"クリエイターを雇わない"ということをルールにしました。

社員としてクリエイターを雇用すれば、当然その社員のクリエイターで企画を提案することになります。

でも、そのクリエイターはクライアントが抱えている課題にベストな人選だと必ず言えるでしょうか。言えない時だってあるはずです。それでも雇用して人件費を払っていたらそのクリエイターで提案せざるをえない、それは広告会社側の経営事情でチームを作っていることになります。

クライアントから相談を受けた時、組織にとらわれずに課題に本当に適したクリエイターの体制を構築することができれば、クライアントにとって大きな価値になります。

昨今、大手代理店から独立するクリエイターが増えているこの流れは間違いなく加速していくと僕は予測しています。独立組クリエイターの数は今後さらに増えていきます。

多数いる独立組クリエイターからクライアントのためのベストな体制を"構築する"という意味を込めてBUILDという社名に決めました。

 

※赤坂のBUILDオフィス。博報堂さんの目の前のタリーズのビルの最上階2フロアを構えました。

 

BUILDのポリシー

"クリエイターを雇わない"以外のBUILDのポリシーを紹介します。

正社員主義

やると決めた以上は、広告業界に旗を立てたいと思っています。

平成の時代にシンガタやTUGBOATのような業界を代表するクリエイティブブティックが誕生したように、令和ではビジネスプロデューサーブティックのBUILDがそのような存在になりたいと思っています。その1つの証しとして、日本を代表するTOYOTAやUNIQLOのような企業から、ど真ん中のブランド広告を指名で受けることを直近の目標にしています。

しかし、そのような大企業の取引先企業選定は非常にシビアです。

例えば全国の店舗に掲出するブランドポスターを制作したとして、入稿ミスが起きた場合には数千万円規模の刷り直し(=補償)が必要です。万が一の事態に、それを負担できる企業でないと指名されません。そのためには、BPは可能な限り正社員でないといけないと思っています。業務委託でも良い仕事を生むことはできますが、法人としての信用は別問題です。法人としての信用を獲得しないといけませんし、資本金の増強やキャッシュフローの安定も必須です。

「BPのギルドやるの?」と聞かれますが、BPの組織はギルド型では難しいと考えています。BUILDのBPは正社員主義をポリシーにします。

 

社員は10人まで

トップクラスの優秀なBPを100人・1000人と集められたら素晴らしいことですが実際には無理だと思っています。メンバー全員が一流で、誰が担当しても最高クオリティの仕事を提供できないとブティックを名乗ってはいけないとも思っています。

逆に言うと、ブティックを名乗って少数精鋭を貫くことによって、規模や利益に囚われずにクオリティを優先する方針で経営ができます。良いWorksだけが、良い次の仕事を連れてきてくれます。クリエイティブの力を信じ、BUILDを信じてくれるクライアントのために一生懸命仕事をし、良いWorksを世に送り出して行きたい。

人を多く雇うと固定費がかかるので、クリエイティブにこだわりが無い案件でも、売上・利益の大きい案件であればつい取りたくなってしまいます。

野球は9人、ラグビーは15人しかフィールドに立てません。だからスタメンはスターなのです。BUILDはBPをこの業界のスターとして扱うので社員は10人までというポリシーを決めました。

 

③マネジメント制度無し

社長でありながらこんなこと言っていいのか分かりませんが、僕は人のマネジメントが苦手で大嫌いです。

かつては部下を10名以上抱えたこともあるのですが、いま振り返ると部下との1on1は苦痛の時間でした。10人と30分1on1するだけで、クライアントに向き合う時間が5時間削られます。社員の将来を考えて向き合わなきゃとも思っていましたが、僕が人の人生を心配できる人数には限りがあります....。だからマネジメントは形式的にやりたくなくて、心からその人、その人の家族の幸せまで考えて向き合える人数に抑えておきたいから社員上限10人です。

評価制度も大嫌いです。数字が良い時があれば悪い時もあります。頑張ってもどうにもならない浮き沈みは必ずあります。そして、誰かの評価を上げるためには誰かの評価を下げないといけません。評価制度でメンバー全員が納得している組織は見たことありません。必ず不満を持っている人はいます。

BUILDのメンバーは一流の人間ばかりで10名を上限にするから評価制度なんて必要ありません。賞与は、賞与原資を決めて社員で均等に割ります。

評価に一喜一憂する時間があるなら、クライアントとクリエイターのことを考える時間に使ってもらいます。僕もそうしたいです。プロフェッショナル集団だからこそできる”評価制度無し”という制度だと思っています。

 

ロゴとステートメント

BUILDのロゴは河村康輔さんに作っていただきました。もともとファンなのですが、河村さんの象徴とも言えるコラージュの作風が、様々な才能を1つにまとめあげるBUILDの目指す姿に通じるものがあると感じたからです。

僕はアンティーク家具が好きですし、電通鬼十則はいまでもDNAとして刻まれていますので、伝統や歴史を感じるクラシックな印象の書体をロゴにしたいと思っていました。BUILDの書体は、打ち合わせのときに河村さんが着ていた古着のスウェットの書体がモチーフになっています。どっしりした存在感ながら、インディペンデントな臭さが感じられてとても気に入ってます。

※社長室の一番目立つ中央上には鬼十則を飾っています。

 

ステートメントは、僕と同じく電通出身である保持壮太郎さん(つづく)にお願いしました。保持さんは僕の話を一生懸命聞いてくれて、BPブティックの構想も前向きに捉えて応援してくれました。

「一度、飲みながらじっくり話を聞かせてよ」と言ってくださり、西麻布のAC HOUSEでワインを飲みながら思いの丈を聞いてもらいました。

「スキルも大事だけど、BPにとって最も大事なのは責任感なんです。クライアントよりもクライアントのことを考える、責任感が強いBPだけが集まる会社にしたいんです。」という思いを「背負う」という言葉で言い当ててくれました。

我々BUILDの存在意義を示した言葉です。一度読んで下さい。

これまで広告の世界で20年働いてきて、この仕事はビジネスプロデューサーによって大きく成果が左右されると信じています。

「クリエイターの素晴らしいアイデアを活かせるかは俺たちにかかっている。」

そのくらいの気持ちで、自分たちBPの仕事に誇りを持っています。BUILDはそれを証明するための挑戦です。

企業の課題が複雑化していくからこそ、組織の垣根を越えて課題を解決することが求められていきます。

組織の垣根を越えてチームをつくることで、新たなクリエイター同士の組み合わせによる化学反応も生まれます。

広告業界ってどうなっちゃうんだろうと不安になることもありますが、そんな不安も忘れてしまうくらい、僕たちBUILDのメンバーは広告クリエイティブの仕事に毎日夢中になってきました。

広告クリエイティブの仕事がもっと楽しく、さらに素晴らしい仕事になるよう、BUILDはクリエイターに寄り添う存在として立ち上がりました。

ADBOXでこれを読んで下さったクリエイターの皆さん、ぜひ我々BUILDとお仕事をご一緒させてください。

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