記事詳細

本を読まない後輩におすすめする僕の広告本ガイド :言葉とコピー編①

上島史朗

「私、本当に本読まないんです。」

僕がメンターを務めている後輩S(女性)は、爽やかに言った。5月に吹く風のような彼女の物言いに、僕はある種の衝撃を覚えた一方で、その言葉に腹を立てたり、失望したりするのは違うかもしれないなとも思った。

まず、彼女は厳密にはコピーライターではありません。(いや、コピーライターだったら本を読まなければいけないって訳ではないけれど…)。いまはアクティベーション・プランナーとして、アイデアで人をイキイキさせることをミッションに日々努力しています。実際、彼女は何かサボっている訳でもない。情報収集能力は、たぶん僕よりずっと高い。そして、企画の視点はいつもそれなりに鋭かったりする。

でも、いや、だからこそ
「も、もったいない・・!」
と、お節介な僕は思った訳です。

お節介であることが大前提なので、本を読めと強制するつもりは1mmもありません。(時代的にも強制はアウト。)。実際、後輩Sは、物を買うのも吟味を重ねる慎重派だと言っています。本一冊についても、自分の意志で読む読まないを決める強い意志を持っているはず。そこで、できるだけ複数のジャンルに分けて、仕事をする時に役に立つかもしれない本を勝手に紹介しようと思いました。半年にわたるお節介な連載。勝手に紹介するので、勝手に参考にしても、しなくてもいい。

・・・・・・・・・

はじめまして。フロンテッジという会社で、シニアクリエイティブディレクター/コピーライターをしています、上島史朗と申します。この連載は「若手コピーライターのみなさんに向けて、言葉の可能性、重要性を考えるきっかけを」というお題のもと考えたものです。しかし、冒頭の会話もあって、僕はその対象を後輩Sに絞って書こうとしています。その内容は、壮大なるお節介としての、冒頭のタイトルになる訳です。

コピーライターですらないかもしれない部下に向かって書くとは何事だ、と感じられるかもしれません。でも、少なくとも不特定多数の方に向かって書くよりも、身近な一人に向かって書いた方が届きやすくなることもあります。みなさんはきっと、後輩Sよりも多くの本を読んでらっしゃると思いますので、ご自身に参考になるところがあればつまみ食いのように読んでいただいて構いません。そして、かつて地方の広告会社で働いていた僕のように、身近にいわゆる広告業界のレジェンドやトップランナーといった師匠を持てないでいる方にとっても、先人の優れた広告本がその役目を担ってくれることをお伝えします。

・・・・・・・・・

という訳で、1回目は、「コピーライターが参考になる言葉とコピーの本」について。

はじめに断っておくと、僕は「読書家」ではありません。では、どんな人が「読書家」なのか。いま手元にある二冊の本、山口瞳さんの『わたしの読書作法』(2004年 河出書房新社)と、鏡明さんの『二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分』(2010年 本の雑誌社)の中にある記述をヒントに、「読書家」ついて考えてみようと思います。ちなみに、山口瞳さんも、鏡明さんもどちらも広告界のレジェンド中のレジェンド。壽屋宣伝部からサン・アド、のちに直木賞作家となった山口瞳さんは、この本の中でご自身が活字中毒者だと認めつつも「読書家」についてこう書いています。「しからば、私は読書家であろうか。否である。断じて読書家ではない。」( P.19)。では、山口瞳さんが思う、真の読書家とは?その例として何人かのエピソードを紹介していますが、たとえば小説家、劇作家の有吉佐和子さんは一日に八時間読書するといいます。同じく小説家、劇作家の井上ひさしさんは古本屋に支払う金額が一ヶ月に二百万になるという話を山口さんは聞いたそうです。比較対象がそもそも常軌を逸しています。もちろん、山口さんのコラムのタイトルが「活字中毒者の一日」であるように、僕から見れば山口さんは相当な「読書家」です。

そしてもう一冊、電通顧問であり、SF作家、翻訳家と多様な顔を持つ鏡明さん。鏡さんの圧倒的な読書量については、この本の冒頭で書かれています。最近、ご自身の読書量がペース・ダウンしていることを嘆きながら、「十年前には、まだ一日二冊は、本を読んでいた。」「一日三冊という、阿呆みたいなペースを持続していた頃に、これでも一生の内に、何冊の本を読めるのかと考え、実にさびしい思いをしたことがあったのだけれども、」(P.12)というのだから、読んでいてクラクラしてしまいます。鏡さんもまた、正真正銘の「読書家」。

それに比べたら、もうね、僕の読書量なんてたかが知れています。
「読書好き」ぐらいのもの。嫌いじゃないのです。だから、あくまでも参考程度に。

 

この記事は
ADBOXプラン会員限定コンテンツです。
残り4,770文字

会員登録またはログインすると、続きをお読みいただけます

おすすめ記事