記事詳細

ちょっと変わったCDの社会人キャリア④「突然の渡英」篇

北尾昌大

連載4回目のご挨拶

 

今回も記事を読んでくださり、ありがとうございます。早いもので4回目、折り返し地点を過ぎました。はじめましての方は時系列の話ですので、1回目から順番に読んでいただけたらうれしいです。

 

今回も大学生のYさんとのインタビュー形式のやりとりで、自分のキャリアを振り返っていきますが、今回の副題は「突然の渡英」篇。基本、人生行き当たりばったりでやってきている話は、ここまでにも書いていますが、この時期にはじめて自分の中の「軸」ができはじめてきたのかなと思います。

 

電通に戻ってやってみたこと

 

Yさん:
前回までのおさらいは、任天堂さんのお仕事がめちゃくちゃうまくいっていたけれど、残業の問題に直面。任天堂さんの仕事を続けるために電通をいったん退職して子会社に役員として赴任。そこでは、クリエイティブに専念できる環境で任天堂さん案件以外にも、漫画原作映画の台本作成やお菓子のプロデュースなど、CMをつくる以外の方法でのクリエイティビティの発揮場所を模索されたというお話でした。

 

北尾:
そうだね。その頃はそのクリエイティブの発揮場所の模索を「クリエイティブの拡張」と呼んでいた。CMの企画にはいくつもの能力が必要だけど、10年以上サラリーマンとして企画ばっかりをやってきていたので、それらの能力が結構鍛えられてきた。例えば、言いたいメッセージがあってそれをどうやって伝えたらいちばん伝わるかを考える時に、いったんいろんな方向から切り口を考えるのが企画には大事。若い頃はとにかく案数を出すことを求められてきたから、自然と1つの事象に対してパッといくつものぜんぜん違う切り口が浮かぶ能力が身についているんだよね。

 

Yさん:
確かに。ブレストしている時に思いましたけど、北尾さん、次々とアイディアを考えだす速度がめちゃくちゃ早いですよね。

 

北尾:
他には、CMって15秒が基本なんだけど、15秒ってめちゃくちゃ短い。だから、複雑な事象をシンプルに言語化して、それに優先順位をつけて並べ替える整理能力も発達している。こういった自分たちからしたら当たり前な能力は、冷静に見つめると特殊能力であることに気がついた。これらを広告制作以外の領域でどう活かすか?をいろいろ実験しながら探っていた感じかな。

 

Yさん:
脚本や商品開発などをしたっておっしゃってましたが、そっちにいかずに今も基本はCMを作りつづけているということは、結論、新しいクリエイティビティの発揮方法は見つからなかったということですか?

 

北尾:
するどいね。そのとおりで、別業界にもそこそこあたらしい視点を提供したりはできたけれど、その業界にはその業界のプロがいる。やっぱり自分の得意分野の中にいる方がよいかなと思った。ただ、自分の得意分野をCMだけに閉じずに少し開くと広告になる。さらにそれをもう少し開くと、クライアント企業と世の中とのコミュニケーションになる。この「コミュニケーション」の部分のプロでいるべきだなと言う考えに行き着いた。ここまで広げると、やれることはまだまだたくさんあるぞと。

 

Yさん:
いろいろと実験してみた結果としての気づきですね。

 

北尾:
そんな日々を送っていたら、当時の任天堂の社長であった岩田聡社長が在職中に突然、亡くなってしまいました。

 

Yさん:
えっ!?あの任天堂の岩田さんですか。え?あ、任天堂の社長さんってそういうことか。僕、書籍も読みましたし、大ファンです。

 

北尾:
本当に素晴らしい社長で、たくさんのことを学ばせていただきました。特に後期は、CM以外の仕事も増えてきて、ごいっしょさせていただく機会も多かった。自分が任天堂さんのお仕事を担当している期間の95%くらいは岩田さんの社長在任時代だったから、岩田さんが他界されてさすがに任天堂の仕事はもう卒業でよいかなと思ったんだ。13年かな、けっこう長く担当したので。

 

Yさん:
そんなことがあったんですね。

 

北尾:
ただ、生々しい話、子会社に役員としていると売上もちゃんと必要になる。任天堂の仕事を卒業してしまうと、さすがに売上の面でもう子会社にはい続けるのは厳しいかなと思い、電通に戻ることを意思決定しました。辞める時に、いつでも戻ってきていいよという書面をもらっていたので。

 

その時、ブティックに在籍していた間もずっと働きずくめで、まともに有給を取ったこともなかったので、最後にまとめて休みをもらいました。アイルランドのダブリンに子どもと家族3人で1ヶ月間、住んでみたりしたのも良い思い出です。

 

Yさん:
出戻りってやつですね。それで、電通に戻ってからは、クリエイティブを続ける形になったのですか?

 

北尾:
もちろんクリエイティブ局に戻る以外の選択肢は考えてもいなかったんだけど、戻る際に受入の窓口となってくださった役員の方から「戻ったら次は何をやりたいんだ?」って質問されたの。おそらく意図としては、今まで任天堂でゲームの担当をしてきたけど、次はビールが良いの?クルマがやりたいの?と言う意味の質問だったかと思うんだけど、正直、今もそうだけど担当したい業種や企業って特にないわけ。

 

Yさん:
確かに、先日も担当する企業の業種業態にはこだわりはない、なんでも良いっておっしゃてましたね。

 

北尾:
そこで「次は、社長としかやらないCDになりたい」と言ってみました。

この記事は
ADBOXプラン会員限定コンテンツです。
残り5,554文字

会員登録またはログインすると、続きをお読みいただけます

おすすめ記事